『スプリング・ブレイカーズ』について

お題:「春」

 

tです。お題は春ということで、「スプリング・ブレイカーズ」という映画のことを書きます。2013年公開、監督はハーモニー・コリン


スプリング・ブレイカーズ 無修正版予告 - YouTube

〈粗筋〉スプリング・ブレイクはいわゆる春休み。主人公の女子大学生四人組は学生生活最後の春休みをサイコーなものにしようと、ダイナーを襲い強奪した金で西海岸に繰り出します。昼夜を問わずビーチで遊びまくる日々の中、若者たちは薬物使用で一斉検挙されてしまいます。留置場で過ごすことになりテンションサゲぽよな女子四人の身元引受人に、謎の男「エイリアン」が名乗り出、裏社会のボスである彼の導きで四人組はよりディープな犯罪に手を染めて行きます。

 

前半、スクリレックスのド軽薄ブロステップに乗せて、浜辺でパイオツ放り出し酒・ドラッグ・セックスに溺れまくる女子たちの乱痴気騒ぎは思想ゼロ(むしろマイナス)で観てるこっちの頭まで軽くなるような仕上がり。スローモーション・ループを多用した高解像度の下品な映像美は、映画というよりミュージックビデオのような質の刺激。どこか強迫観念じみた「楽しさ」の洪水。

そんなアゲアゲな空気からは一転、スカーフェイスに憧れるギャングスタ・エイリアンが登場してからの後半は、その得体の知れない邪悪さに蝕まれるように濃厚なイヤ感が画面を支配していきます。屈強な男たちを束ね、寝室に無数の銃器を飾り、妙に懐っこい笑顔からは装飾が彫り込まれた前歯が覗く彼は、四人を見初め仲間に引きずり込んでいきます。

 

春は変化の季節です。新しい出会いの予感に胸躍らせる人がいる一方で、変わることを恐れる人も、今ここにとどまっていたいと願う人もいます。そういった人々に、春のあのむせかえるような芽吹きの匂いは痛いくらいの焦燥感を植え付けます。

退屈な未来のことなど一瞬たりとも考えたくない。絶えることのない刺激の中で永遠に踊り続けていたい。青春の終わりを派手に打ち上げるだけでは飽きたらなかった彼女たちと、トニー・モンタナにはなれないまま終わりの見えない非日常の中を生き続けていたエイリアンは、春にうなされ永遠を希求したモラトリアム人間たちの「いままで」と「これから」の姿であり。退屈な未来も永遠に続く現在もどちらに転んでもその先は虚無だよと示す「これから」は、しかし「いままで」たる彼女たち(それはかつての彼の姿であったかもしれない)の捨て鉢なエネルギーによって一応の救済を得るのです。最もラストシーンが示唆するように、永遠の現在を選びとった彼女たちのその後が幸福な刺激に満ちたものであるはずもないのですが。

春は嫌な季節です。何かの訪れが何かが去ることで補完される限り、疼くような寂しさと焦りはこの季節につきまとい続けます。春が何より辛いのは、あらゆる開花の気配が、去ること・終わることへの憂鬱を憂鬱として抱かせてはくれない所です。始まりの季節の本質は躁と強迫です。

前半のアゲアゲな乱痴気騒ぎにも、後半のサグサグな裏街道漫遊記にも、刹那の感傷を封じ込めようと虚勢を張る時の胸苦しさが涙の膜のように薄ーく貼り付いていて、ああこれは正しく春の映画だと感じた次第です。

 

上に貼った動画を観ての通りエロいというより色々と下品な映画なので人は選ぶかと思いますが、春が苦手な人には割とお勧めです。女の子たちはみんなカワイイ。体型もボテッとしてて親近感湧く。でも最強のガールズムービーっつう惹句はちょっと詐欺だよ。

 

文責:t

 

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